三菱UFJ銀行の貸金庫で盗難発生?
銀行の信用を揺るがすような大事件が起きました!本当に信用できるものが無くなってしまうような、不安を覚える事件です。
三菱UFJ銀行員が十数億円を窃取 顧客約60人の資産、貸金庫から
三菱UFJ銀行は22日、東京都内の貸金庫から顧客の資産を盗んでいたとして、貸金庫の責任者だった行員を14日付で懲戒解雇したと発表した。被害者は約60人に上り、時価で十数億円の被害を確認したという。
同行によると、元行員は2020年4月~24年10月、練馬と玉川の2支店の貸金庫から現金や金、宝石などを盗んだ。行内のルールでは、顧客に無断で貸金庫は開けられず、開ける際は管理職の許可を取って複数人で行うことになっている。だが、元行員は支店の貸金庫の管理責任者だったため、その立場を利用して顧客に無断で貸金庫を開けていた。
~略~
(朝日新聞デジタル)
支店の貸金庫責任者が不正をしていたようです。ただ、本当にそんなに簡単に不正ができるものなのでしょうか?副支店長として支店の貸金庫の管理もしていた経験を持つ筆者が貸金庫の管理体制と共に解説していきます。
銀行員は貸金庫を開けられる?
銀行によって貸金庫の管理方法は様々ですが、結論を申し上げると「開けられる」のです。
ただし、普通はバレます。
マスター鍵の管理はどうなっている?
貸金庫には「マスター鍵(マスターキー)」、「マスターカード」が存在しています。これは銀行が保管している鍵で、この2つを持っていると貸金庫室に自由に出入りでき、金庫も開けられます。この鍵は厳格に管理されており、一般行員は持ち出すことができません。持ち出すことができるのは窓口の責任者などの「役席」で、世間一般でいうところの「管理職」のみとなります。
マスターキー等を持ち出す場合は不正防止のため、この管理職が二名以上立ち合いの上、持ち出すことになっているのが一般的です。(鍵管理機で誰がどのカギを持ち出したかすべて記録されている)
マスター鍵とカードは別々に保管されており、それぞれが厳重に管理されています。
また、貸金庫は誰が入室し、どのボックスを使用したかがすべて記録されています。その記録は毎日チェックされています。誰が入って、誰が何を操作したかが分かります。(何を入れたか、何を出したかはわからない)
従って、来ていない顧客のボックスが開けられていた場合、「おかしいな」と気づくはずです。
このように、かなり厳しい管理とチェックがなされています。
銀行員がマスターキー、マスターカードを使う場合とは?
銀行員がマスター鍵やカードを使用するケースは以下の4つしかありません。
①貸金庫の機械に不具合が起きた際に確認に行くケース
②お客さんが貸金庫に閉じ込められてしまったのを助けに行くケース
③契約時や解約時に案内をしたり、立ち合いするケース
④契約や解約の事前準備の際に鍵を出し入れするケース
実は、④の場合が不正の可能性が高まります。
①、② 不具合等が起きた時に立ち入るケース
この場合、鍵は使わないので、マスターカードだけ使用します。金庫も開けられないので、不正は起きる余地がありません。
③ 顧客対応のケース
契約時や解約時は貸出する金庫の中が空っぽであることを当事者と銀行員が立会して確認します。この立ち合いの際に顧客に貸金庫の操作手順などを案内したりもします。顧客の目があるので不正は起きません。
④ 契約等の事前準備のケース。事前準備は1人で行う場合も・・
貸金庫の業務はやや特殊で、あまり業務を知らない行員が多いです。知っている人に業務が偏ります。ましてや、契約のために事前に鍵を準備しろと言われても、貸金庫責任者以外の役席は貸金庫室の入り方すら良く知らないというのが現実だったりします。
そうなると、貸金庫の役席者に頼りきりとなり、貸金庫以外の役席はマスターキー等の取り出し立ち合いだけして、「あとはよろしく!」となるのです。
すると一人でマスターキー等を持って貸金庫に出入りできるため、不正をするスキが生まれます。
今回の事件の考察 ~想像~
正直、あり得ないことが起きたなという感じです。全国の銀行員が衝撃を受けた事件だと思います。
想像するに、他の役席も貸金庫のチェックはしておらず、良く分からないので貸金庫の管理は貸金庫責任者任せになっていた。
金庫の利用履歴は責任者がいるときは責任者がチェックするので、不正はばれなかった。責任者がいないときは、不正は起きていないので、チェックしても何も出てこなかった。
相当信頼を得ていた人物であり、牽制が働かず、やりたい放題になっていたのかも知れません。
ただ、かなり長期間バレなかったのは不可解です。というのも、貸金庫は普通、内部検査という支店内の抜き打ち検査で定期的に確認をしているはずです。この抜き打ち検査(内部検査)は普通、支店長が検査員となる行員をランダムに指名して行います。この内部検査を何らかの方法で無効化していたことになりますが、この内部検査を回避するのはかなり難しいので、支店の相当上(まさか支店長?)が絡んでいると感じます。
加えて、支店の検査以外にも本部からの検査(監査)も普通は年1~2回は来ます。この際にも貸金庫がノーチェックだったということになるので、三菱UFJの内部統制に相当な不備があったと思います。
本部からの支店への監査(検査)については、昔は支店内の重要書類をひっくり返して一つ一つ検証していましたが、最近はリスクベース監査と言って、リスクが高いものを重点的にみる検査が主流となっています。貸金庫は不正が起きないと考えられていたため、あまり検査されなかった可能性もあります。
長期間に渡って銀行自らが不正を発見できなかったという点は、支店内部に他の協力者がいたとしても不可解な事件です。支店長クラスが関与し、本部も相当マヌケであったということでしょうか。
貸金庫って、利用者はとても大切だけど普段は使わないものを預けるので、そんなに頻繁に中身を見に来ません。人によっては物を入れたまま本人は亡くなっていて、その相続人が開けに来ることもあります。その場合、亡くなった本人以外は何が入っているか知らないので、事件に気付かず闇に葬られてしまうのです。
正直、貸金庫から何かが無くなったという相談自体、私は受けたことがありません。従って、2~3か月に1件、しかも違う顧客から物が無くなった旨の申し出があったとしたら、相当おかしい状態だと気付くはずです。この件もそれがきっかけで発覚した感じがします。
記事によると被害者は約60名と書いてありますが、見えない被害者がもっと居る気がします。
この事件は続報を追いかけて、また記事にしたいなと思います。
貸金庫にまつわる不正Q&A
マスター鍵とマスターカードがあれば誰でも開けられるか?
もし、あなたにマスター鍵とカードを渡したら、貸金庫は開け放題になるでしょうか?
答えは「そうとは限らない」です。
というのも、特殊な開錠パターンが定められているからです。
金庫のダイヤルを見たことがあるでしょうか?
このくるくる回すやつです。利用したことがある方はわかると思いますが、このダイヤルは「80を右に2回、0を左に3回、55を右に5回」といった決められた数字を経て開けることができます。
貸金庫の鍵も同じように「上・下・上・上」といったパターンを知っていないと開けられません。
貸金庫の細かいパターンを全部知っている人って、おそらく支店内に貸金庫を管理の責任者1人しかいません。おそらく普通は支店長も知ろうとしない限り知りません。
スペアキーを作ることはできる?
基本的に貸金庫の鍵は2本しか存在しません。1本(本鍵)が本人に渡され、もう1本(副鍵)が顧客の印鑑で封緘したうえで銀行が保管しています。
今回は副鍵を使った不正だとしたら、副鍵の封緘が破られているので、それこそ内部検査ですぐに発見できたことでしょう。従って、副鍵は不正に使っていないのではないかと思います。
貸金庫のカギは特殊なカギであり、専門業者でないと鍵の複製はできません。専門業者も金融機関以外からの受注はしません。作成した記録も残るので、作れることは作れますが、不正目的で作成することは難しいでしょう。
貸金庫の種類と不正の可能性
貸金庫には大きく分けて3つの種類があります。
全自動タイプ
全自動タイプはカードと鍵が交付されます。カードを使い、暗証番号を入れると無人の貸金庫室に入室することができます。入室後、全自動で自分の貸金庫ボックスが出てきます。貸金庫ボックスを鍵で開けて荷物の出し入れをするタイプです。
半自動タイプ
無人の貸金庫室へカードと暗証番号で入室し、自分で貸金庫の鍵を開け、荷物の出し入れをするタイプです。
手動タイプ
入室申込書に記入し、行員と貸金庫室に入る、または貸金庫のボックスを行員が持ってきて、それを鍵で開けて荷物の出し入れをするタイプです。
全自動タイプと手動タイプではどちらが安全ですか?
対銀行に対する不正リスクという意味では安全性は変わりません。結局、不正に鍵の出し入れをされてしまうと全自動だろうと手動であろうと出し入れできてしまうからです。
ちなみに、物理的な貸金庫の耐久性(壁に穴をあけるとか、床に穴をあけるとか)は圧倒的に古い金庫のほうが高いです。古い金庫は金庫が建物に建築段階で最初から組み込まれており、一体になっています。従って、建物を壊すときでないと金庫を解体できません(あまりにも撤去費用が高いので)。最近の金庫は普通の部屋に後付けするタイプもあるので、それと比べたら古い金庫のほうが安全かもです。(どちらも頑強ですが)
自己防衛するにはどうすれば良いですか?
- 貸金庫カードと貸金庫の鍵は絶対に第三者に貸し出ししない。暗証番号も教えない。これは当たり前にやりましょう。
- 金庫の中の写真をスマホで撮影しておく。ついでに防犯カメラに向かって中身を撮影させておく。といったことも有効な可能性があります。
- 中に入れるものは封筒などに入れて封緘をする癖をつけましょう。また大きな台紙にその封筒を糊付けするのも有効だと思います。大きなものは持ち出ししずらいからです。
- 中身を記録している旨の手紙を見えるように入れておくのも「盗んだらバレるぞ」というけん制になる可能性があります。
一応同業者なので、自分で書いていて虚しくなってきました…。
三菱UFJ銀行には真摯な顧客対応と積極的な情報開示(発生原因や防止策なども含む)に努めてもらい、自行のみならず銀行業界としての信頼回復に強く努めて欲しいと思います。
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