暴落したトルコリラ
米国との米国人牧師問題をきっかけとする激しい対立、シリア問題、留まることを知らないインフレ、極めつけはリラを安くしようとしているのではないかと思えるような発言ばかりするエルドアン大統領と問題山積みなトルコ。8月には大暴落劇がありました。
トルコショック、市場を揺らす、リラ、一時2割下落、新興国・欧州へ波及警戒。
トルコの通貨リラの急落に端を発した「トルコショック」が世界のマーケットを揺るがしている。
(中略)
リラの対ドル相場は10日の米市場で一時1ドル=6・8リラ近辺まで下げ、過去最安値を更新。前日比の下落率は一時2割近くに達した。この1週間の下げは2割を超え、年初来下落率は4割に及んだ。リラ急落の直接のきっかけは米国人牧師の拘束を巡る外交問題だ。トルコのエルドアン大統領が金融政策に公然と介入し、通貨防衛やインフレ沈静に動きにくくしているのも影響している。
このエルドアンという大統領は尋常では無い人物です。インフレを抑制するには利下げが必要だ!という独自理論の元、自身の独自理論に反対する中銀関係者を次々にクビにしてきました。その結果、トルコリラは大暴落しインフレ率も上昇を続けるという悪循環を作り出しました。しまいには、一連のトルコリラ下落は経済テロリストのせいだと非難をはじめ、見えない敵と戦い始めるという愚行をしています。
こんな大統領ですがトルコ国民の心はがっちり掴んでおり、2003年からトルコ共和国の最高権力者の地位を維持しています。今年実施された大統領選にも勝利しました。最低あと5年はエルドアンが大統領を務めるようです。ぜひ頑張ってほしいものです。
(続き)
トルコは海外マネーに頼る経常赤字国で、為替介入余力が乏しいことも通貨安加速の一因だ。
国際通貨基金(IMF)によると、経常赤字の国内総生産(GDP)比は17年で5・5%と高水準。トルコ中央銀行によると3日時点の外貨準備高は1029億ドル(11兆4千億円)と輸入の5カ月分程度で、うち機動的に使える資金は200億ドル程度にとどまり、ドルを売ってリラを買い支える介入余力は限られる。
トルコにお金はございません。むしろ借金大魔王です。トルコの対外債務残高は3月末時点で4,667億ドル(1ドル110円とすると、51兆3370億円)。
(続き、中略)
すでにリラ安につられて南アフリカランドやロシアルーブルなど他の新興国通貨も下げており、「伝染」の気配は表れている。トルコ同様に経常赤字を抱える南アやアルゼンチン、インドネシアなどは当面、通貨売りの圧力にさらされやすい局面が続きそうだ。
経済的結びつきの強い欧州への影響も懸念材料だ。国際決済銀行(BIS)によると、各国銀行のトルコ向け債権で最大なのはスペインで、3月末時点で809億ドル(9兆円弱)と全体の36%に及ぶ。フランスが351億ドル、イタリアが185億ドルと続く。米JPモルガンによると、トルコが海外から受け入れている直接投資の残高は今年5月末で1400億ドル。昨年末時点では75%が欧州各国からの投資だ。
「伝染」が広がれば、世界規模でリスクを回避する動きが強まり、日本や米国も影響は避けられない。堅調だった米ダウ工業株30種平均も10日は196ドル安に沈んだ。
(中略)
当面は「トルコリスク」から目が離せない状況が続きそうだ。
2018/08/12 日本経済新聞 朝刊 3ページより
問題はトルコのみでなく、南アフリカやブラジル、ロシア、アルゼンチンなど他の新興国に波及しました。先進国である欧米株や日本株も影響を受けました。
年初30円位だったリラ円は15.5円位迄大幅下落。ほとんど半額です。たった8か月で。
この大暴落を世間ではトルコショックと呼んでいます。トルコショック後は一旦値を戻した後横這いで値動きし、最近大幅利上げをしたことで急騰しました。大幅利上げで急騰したことから最近「大暴落のトルコリラ 大幅利上げで復活の兆し!」みたいなトルコリラ買いを勧めるような記事が増えてきたように感じます。
今後の見通しは上がる?下がる?
結論から言います。お勧めしません。
リラ円は一旦20円くらいまで上がる事は有っても、最終的には15円程度に収束すると考えます。
トルコリラは暴落の歴史
2007円は1リラ=約100円でした。
それが2009年には1リラ52円になりました。
2011年に40円、2016年には30円と順調に切り下げていき、ついに2018年は15円台まで下がりました!
さらにトルコは2005年にデノミをしています。
トルコは旧トルコリラ(TRL)を廃止し、新トルコリラ(TRY・現在のリラ)を発行しました。その際のレートは100万旧トルコリラ=1新トルコリラでした。ハイパーインフレに見舞われてベネズエラのようになっていたのです。
今でこそそこそこの経済規模がある国ですが、その基盤は脆弱です。通貨価値が上がった歴史がほぼ無い通貨といえます。
ベネズエラ破綻寸前ってニュース。ハイパーインフレなってるらしくて。
食べ物がなさすぎて動物園に動物見に行くんじゃなくて、動物食べに行くらしいっすよ。これガチっすよ。相当オモロイ。
ジンバブエ並みに紙幣持って買い物いくらしいっすよ。
札束持ってバナナ買いに行くらしいっすよ。 pic.twitter.com/JdBDU9qfZL— ーきろひ (@donmikasa_) May 21, 2017
トルコ国内の状況
トルコ国民の状況はどうなっているのかを考察してみましょう。
トルコショック、市場を揺らす――トルコ、実体経済は安定、外貨頼みが弱み。
10日のトルコリラ急落を受け、最大都市イスタンブールでは市民が外貨確保に奔走した。「たった30分でこんなに下がるとは」。繁華街ベシクタシュで、大学を卒業したばかりというクゼイさん(22)は手持ちの8000リラ(約14万円)をドルとユーロに両替した。「コーヒーを飲んでいるうちに350リラ損した」と悔しがった。
通貨の変動を常に気にしなければ損します。おちおちコーヒーを飲んでいる場合ではありません。
(続き)
もっとも、外貨確保を除けば、銀行取り付けのようなパニックは起きていない。リラ安は物価高などで市民生活に影響を与えているものの、実体経済は現状、一定の安定を保っているためだ。
昨年の7%超の高成長からの反動や足元の通貨安の重荷はあるものの、2018年も3~4%程度のプラス成長は確保する見通し。人口約8千万人と内需に厚みがあり、自動車や観光など国際的な競争力を持つ産業もある。人口増加も続き、成長余力は大きい。
公的債務残高の国内総生産(GDP)比は約28%、財政赤字も同2%以下にとどまる。今の通貨安は、政府の支払い能力への疑念ではなく、経済・外交政策の信頼失墜の色が濃い。
外貨確保を除けばパニックは起こっていない...。つまり外貨確保ではパニックが起きたということです。国民のリラへの信用はかなり低くなっていると言えます。また、リラの下落は国民がリラを売ったことによる部分もあると思われます。
(続き)
もっとも、地力はあっても、このまま通貨安が続けば、実体経済への悪影響は避けられない。
懸念されるのは民間企業が抱える外貨建て債務の返済負担の膨張だ。3月末時点の対外債務4666億ドル(51兆7000億円)の約7割が民間部門に集中する。10年物国債利回りはリラ建てが20・6%、ドル建てが8・2%に跳ね上がり、市中銀行の外貨調達コストも大幅に上昇している。
エルドアン政権の強権路線を敬遠して、海外企業などのトルコ投資も減速気味だ。1~6月の海外からの直接投資は前年同期比3・6%減の48億ドルと前年割れの傾向に歯止めがかかっていない。成長マネーを呼び戻すためにも、政策運営への信頼感を取り戻すのが急務だ。
2018/08/12 日本経済新聞 朝刊 3ページ より
国内ではリラが安くなったことで輸入価格が上昇しており、建築資材などが調達できず建設が止まったり、海外ブランド品をはじめ食品などでも毎週のように値上げが行われているそうです。リラ安が一服したので徐々に安定はするのでしょうが、インフレによる消費の停滞はすぐそこまで来ているように感じます。
経済の状況は悪くないだけに惜しい国です。
リラはどうなるの?
買っているのが日本の個人くらいです。トルコ人は利上げが発表されて急騰した時、手持ちのリラを売って10億ドル分のドル買いを行ったそうです。また、エルドアン大統領は利上げを今もなお否定しています。トルコ中銀総裁がエルドアンの手によってクビになるのも時間の問題かもしれません。そうなればまた未曽有の暴落をするでしょう。
何も無くても元々日本人くらいにしか買われていない通貨ですから次第に値は下の方に戻ると思います。ただし、中銀が強い姿勢を見せた事でサプライズが無ければ当面は15~18円の間で安定すると思います。エルドアンが中銀の独立性と金利上昇を容認し、インフレへの徹底的な対応を意思表明すれば本当の上昇が来ると思います。その時は30円台を回復してもおかしくないでしょう。
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